本と寄り添いながら(7) 「世界を見る・考える」第3回

「戦略と陰謀」

 

 9・11多発テロに関しては先月号をもって一応終わりとして、これらの流れの中にあるアメリカの姿勢について目を向けてみたい。 

 政治の世界、とりわけ世界政治の世界ではよく「陰謀」と言う言葉が使われる。陰謀などと言う言葉を聞くだけで、暗い感じがするし、そんなことがあり得るはずがないという印象もある。しかし、一体何が陰謀で、何が戦略かと考えるとわからなくなってしまう。

 5月30日から6月2日まで3日間、ワシントン郊外で「ビルダーバーグ会議」が行われたが、ほとんどの人はこの会議の事を知らないと思う。会議の内容は明らかにされていない。例年なら会議の模様を漏れ聞くことも出来たのに、今年に限って閑古令が徹底しているようだ。しかし、大体どのようなことが話合われたのか、会議の前と後の世界の動向で専門家にはほぼ見当がつくようである。

 今年の会議では、アメリカのブッシュ大統領に、イラクへの攻撃を認める代わりに、京都議定書の批准を認めさせる方向の話し合いがされたと思われている。もちろんイスラエル問題も話し合われたことは言うまでもない。

 では、そのような世界的な問題を左右するようなビルダーバーグ会議とは一体どのような人たちが参加しているのだろうか。先進8カ国会議と言われているようなものとは違うようである。

 ビルダーバーグに関して書くだけでも2か月分のスペースが潰れそうなのでごく簡単にふれておきたい。この組織は「秘密結社」である。創設は1954年4月であり、現在のメンバーは150名ほどだと言われている。秘密総会は年に一度3日間と決まっていて、検討課題は、リアムタイムの外交問題、国際経済問題である。実質的な役割を演じているのはロスチャイルドとロックフエラーであって、政策の基本路線は統制委員会(米国15名、欧州25名)で決定され、問題ごとにシンクタンクをつくり、欧米各国に(日本も含む)提言される。ビルダーバーグに資金援助しているのはロスチャイルドの傘下であるウオーレンバーグ家とロックフエラー系のエクソンとIBMである。

 このようなメンバーの会議で、世界の重要事項が検討され、決定され欧米主要国を動かしている事実を忘れてはならない。これは事実である。陰謀と考えるのか戦略と捉えるかは各自の判断であるが、実は陰謀などと言うものはない。国家にしても、このような秘密結社にしても堂々と国際戦略として行っているのである。だがしかし、それらの内容が公にされることがないだけに陰謀とうつるだけである。
 
 さて、今年のビルダーバーグ会議だがアメリカ政府からも参加していたはずである。アメリカ政府は、アイゼンハウアー大統領時代からこの会議に参加している。もし予測されるようにイラクへの攻撃が容認されたとなると、年内に攻撃が行われるかもしれないが、それまでに解決しておかなくてはならないことがある。それはイスラエル・パレスチナ問題である。パレスチナ問題を解決しないままイラクを攻撃するには、攻撃の拠点となる国がクエーとだけであり、クエートも今のところはアメリカのイラク攻撃に反対しているところから攻撃の拠点となるべき場所を作れないし、空母からの攻撃だけではイラクは叩けまい。

 アメリカは、9・11が引き金になって不況がやってきたように、何もかも9・11のせいにしているが、アメリカの景気に陰りが出ていたのは9・11の前からである。その上、世界的な巨大企業が粉飾決算(会計報告を嘘で固めて投資家をだましていた)をしていたことが次々と明るみになり、株価を急落させ、消費意欲を引き下げアメリカの景気は一気に下降気味になっている。日本の企業が粉飾決算をしたときには、日本は時代遅れだと散々に叩かれたものであるが、アメリカ企業も同じ体質を持っていたことがわかってきた。それは言うならば、アメリカ景気もやはりバブル景気だったわけである。何ヶ月か前に書いたように、ブッシュ大統領は、9・11後、速やかに航空機業界に史上最大の費用を投入し戦闘機を発注した。これには二つの意味合いがあるだろう。不況に向かおうとしている景気の歯止め効果と、軍事産業と近い関係にあるブッシュとしてはこの機会を捉えて軍事産業のてこ入れをしたいということだろう。作るだけでは仕方がないから、これらを有効に使うための他国への攻撃の機会も作らなければならない。

 イラクへの攻撃は、景気回復のための切り札的意味合いなのである。本音は北朝鮮をも攻撃したいのだが、これには、日本、韓国、中国、ロシアの同意が必要で、現時点ではそれらの国からの同意は得られそうにないために断念せざるをえないだろう。イラク攻撃の場合も、イラクの石油権益を持つフランス、ロシアの同意が優先されるが、どうも両国の同意はすでに得た模様である。

 先ほども書いたようにイラク攻撃には、イスラエル、パレスチナ問題の解決がなくてはアラブ諸国からの攻撃拠点の協力を得られない。そのためにアメリカは、これまでのイスラエルへの一方的な支援から後に少し引いているような印象が伺えるし、イスラエル軍によるパレスチナのアラファト議長の拠点たたきと言う極限状況に対して、フランスもロシアもコメントを控えて静観している節がある。アラファト議長から世界中へ向けてのSOS呼びかけも全く無視された形である。

 ここに来て、アラファト議長を追い出し、新指導者のもとで新たな交渉のテーブルにつかせようという動きが出てきている。

 アメリカがどうしても叩きのめしたいと言うイラクは一体何をしたというのであろうか。
そもそも、アメリカ政府とイラクのフセイン大統領は仲のよかった間柄である。イランがアメリカに牙を剥き、反米指向を強めていた頃は、アメリカはイラクに対し微笑み、軍事援助を惜しむことなく与え、イラクをしてイランに戦争させたのである。俗に言うイラン・イラク戦争である。アメリカの思惑はこの戦争で両国がくたばってしまうことを期待したのだろう。西欧諸国がよくやる手段である。この戦争の陰にはアメリカの巨大石油資本の思惑が絡んでいたことは明白である。イラクはアメリカの代理戦争でイランと戦い、戦争が終った頃には国力は大きく低下していた。

 その頃、アメリカはクエートを使ってイラクを追い込んでゆく。そのクエートが海の下、海面下で国境線を越えて斜めに坑道を掘りイラクの石油油田から石油の大量盗み取りをしていた。イラクはクエートに抗議をしたが入れられず、軍事行動を起し始めたのである。

 イラクの軍隊がクエートに向かって進軍していることを衛星による探査で知ったアメリカは、イラク駐在大使をフセインのもとに差し向けた。このときの会談の席上フセインは、クエートの行為を非難し、今後何らかの手段を取るだろうと発言したのに対して、アメリカの大使は「イラク、クエート問題はアメリカの関知しない事である」と言ったために、フセインはイラクのクエート侵攻をアメリカが事実上容認したものと受け止めクエートに侵攻したのである。

 ところが、クエートに侵攻するや否や、アメリカは「これは侵略だ」と非難し、国連で非難決議を行い、出兵し「湾岸戦争」が勃発した(1990年)ことはまだ記憶に新しいだろう。アメリカは、イラクの行動を事前に何も知らなかったと言ったが、フセインはアメリカ大使との会談の模様を全部録音していてその内容を世界に公表した。アメリカは事前に知っていたと言うよりは仕組んだのである。それらは1989年11月CIAとクエートとの秘密合意文書(イラクをもっと弱体化させるためにアメリカとクエートが協力すると言う)などでも明らかなことなのである。それでも当時のブッシュ大統領(今の大統領の父)は「寝耳に水」と言い放った。これらは日本の真珠湾攻撃を知りながら攻撃させた後、「正義のため」と反撃に出たのと同じやり方だということは先月も書いた。

 当時、フセインの一方的侵略と大々的に報じられたので多くの人々は、今もそう思ってしまっている。しかし事実は、全く違っていたのである。アメリカの狙いはなんだったのか、結論から言うと「アメリカは戦争をしたかった」からである。この湾岸戦争がアメリカにどれだけの利益をもたらしたかは、その後のアメリカを見ればよく理解できるだろう。双子の赤字と言われる国家赤字に悩まされていたアメリカは、この湾岸戦争で一気に息を吹き返し、その後これまで9年間未曾有の景気拡大を誇ってきたのである。

 1990年9月ブッシュ大統領(父)が「新世界秩序」という言葉を使い始めている。これは、今ではよく知られる「グローバルスタンダード」であり、アメリカを中心とした欧米諸国が、自分たちの都合のよいさまざまな仕組みを世界に押し付けるための言葉であった。

 「仕組まれた湾岸戦争」の中で著者の浅井隆氏が書いた(1991年出版)内容には、その後10年間の予測が書かれている。この本は、出版された当時に読んでいたが、今改めて読み返すと恐ろしいほど的中ぶりに驚いている。是非一読をお勧めしたい。一言紹介しておこう。「これを機に、アメリカ経済弱体化の元凶の日本を封じ込め、国際社会の異端者として阻害化するだろう」「「湾岸危機を戦争にまで拡大し、衰えつつあるアメリカ経済を復興させ、石油産業と軍事産業に多大な利益を与え、復興のためには「世界新秩序」のためと言う言い方を使って日本を弱体化するだろう。90年代は日本人にとって忘れがたい10年間となるだろう」

 ここに来て、9年間も拡大を続けてきたアメリカ景気にも陰りが見えてきた。イラクが何をしたかという問題ではない。アメリカの気に入らないだけなのである。グローバルスタンダードに入りたがらない、言うことを聞かない、ただそれだけである。番長が、俺の言うことを聞かない奴はと弱いものに対して「いじめ」をするのと大差はないのではないだろうか。イラクを叩くための戦略を練ってきた大統領補佐官が先日辞任した。これは一体何を意味するのであろうか。イラク攻撃をあきらめたのか、すでに充分な戦略が練りあがったためなのか。それとも鳩派と言われるパウエル国務長官の主張が強くなったのか。そのいずれなのか今のところわからない。結果は、まもなくわかるときが来るだろう。イスラエル、パレスチナ問題もそういう意味において目が離せない。

 今度は、息子のブッシュがアフガンを叩き、そしてイラクに戦争を仕掛けようとしている。クリントンの民主党より共和党の方が親日的だと喜んでばかりいられない。どうもブッシュ親子は「戦争が大好き」なようだ。彼らのバックにあるものが戦争を望んでいるからである。

 次回は、世界最大の難問題である「イスラエル、パレスチナ問題」の根源に触れ、その歴史的背景に迫ってみたい。
(参考書籍32冊の明細は、6・7月号を参照されたい)